だいすきなフレデリカ/ねことら
落ち着いた、冬のプールが好きで冷たい水に足先をひたしてふたりで過ごした、緑に濁った水面をすべる落ち葉の数を夜空の星の数のように数えた、糸くずたちにからかわれても気にしないで楽しく過ごした
フレデリカ、あの日、裏窓から入った夜のプールできみの骨に舌を這わせた、肋骨のかたち、頚椎のかたちをたしかめあった、お互いが気持ちいいことを繰り返し舌で確かめ合った、たったそれだけだ、ほんの数分間、皮膚の、水の、血の、緩やかに巡る熱の、ただぬくもりがほしかっただけだ、そんなことはだれにもいわせない、でも思い出すたびに小さな熱をいまもここに感じる、世界の果てに置き忘れられた百円ライターみたいなさみしい火だ、
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