夜船/古月
簡素な造作の掘立小屋であるが、そこには賑わいがあった。笑うことを忘れて果たして何れくらいになるだろう。もう随分長いこと笑っていない気がする。汚れた身形と言えども人々は楽しそうで、お囃子に乗せて下手な唄が聞こえる。
桟橋に繋がれた船には、女達が居た。赤い提灯に墨で、わたしふね、と書かれている。渡し舟なら都合が善かろう。私は何の気なしに其方へと向かおうとしたが、子供に袖を引かれて呼び止められた。先程の、野球帽を逆さに被った少年である。
坊や、如何したの、お母さんは一緒ではないの。そう問うてみると、少年は黙って渡し舟を指差した。丁度その舟は岸を離れ、暗い夜闇へと消えていくところであった。慌てて舟
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