夜船/古月
て舟を呼び戻そうと私は駆け出したのだが、後ろから、やめておきなよ、もう聞こえないよ、と言われた。見れば老婆が何時の間にか居て、少年の肩を抱いている。
ありゃあ中州の遊女さ。もう帰らない。帰らないのさ。老婆はそう言って笑い、遊女ってなあに、と少年も笑った。この子の母親はね。この子の為に捨てるのさ。この子がこの先、生きるだけの、長い命を捨てるのさ。僅かな銭金と引き換えにね。そうして、そうして、骨と皮になって、こんな婆になっちまうのさ。
返す言葉も見つからぬ私が懸命に何か言おうとしている内に、老婆は少年の手を曳いて、そのまま何処かへと消えてしまった。
色町では、夜も、夢も、浅いと言う。生温かな風に乗せて、お囃子が葦の葉を揺らしている。
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