わたしたち三兄妹/吉田ぐんじょう
妹は
とてもよく似ていた
声も歩き方も姿勢も
階段をのぼる足音さえも
区別がつかないほど似ていた
わたしたちを見分けられるのは
わたしたちだけだったから
母はそれぞれに一本ずつ
唯一の武器みたいに
黒のマジック・ペンを持たせて
自分の持ち物には
自分の名前を書くよう言い聞かせた
夏の日
居間で三人はだかになって
お互いの背中に
お互いの名前を書きあったことを
今でも昨日のことのように思い出す
抱き合うと心地よくて
三人でひとりの大きい人間みたいな気持だった
帰宅した父にこっぴどく叱られて
すぐに浴室で洗い落とされてしまったけれど
完全には落ちな
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