わたしたち三兄妹/吉田ぐんじょう
ちなかったから
今でもわたしの背中には
不器用な兄が書いたわたしの名前が
傷痕のようにうっすらと残っている
・
やがて
兄に声変りがおとずれ
わたしが初潮をむかえ
妹の体に体毛が生えそろうと
わたしたちは突如として
ひとりひとりの個人に成った
兄は爪をやすりでととのえ
妹は水生動物になってしまったように
何時間もお風呂につかり続け
わたしののどの奥の蝶々は
いつの間にか消えてしまった
しばらくは何をしゃべっても
喉の奥からせりあがってくる声が
ざらざらと奇妙に甲高くて
黒板を爪でひっかく音のように不快で
ときどき思い出したように
兄や妹と抱
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