ドア、閉まります/吉田ぐんじょう
 

遠くに高層ビルがかすんで見える
あのひとたちはどこへゆくのだろう
ころされにゆくのかもしれないな


あのころのわたしは
最終列車へ乗るのが好きだった
うすぐらい車内はどこかしらものがなしく
乗っているひとびとはみんなうつむいていた
窓外には街灯が
ぽたりぽたりと滲んで流れてゆく
わたしもふくめて
みんな幽霊みたいだった
それでもひとびとは
帰るべき場所へ帰ってゆく
わたしはうとうとしながら
みんなすごいんだなあ
なんて考えていた

わたしには帰る家はあったけれど
帰るべき家はなかったから

だからしばしば乗り過ごして
眼を覚ますとそこは鵠沼だっ
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