ビルケナウからの手紙/月乃助
 
れませんが、
それしか、わたしが生き残った理由のようなもの
は、考えられないのです。

これが終わったら、
夫と二人の子供たちと
ワルシャワの大通りにパン屋をひらく、
それだけの夢です。

それでも、
そのパン屋のドアの色から、
カーテンの生地、パンがまの大きさに、
並べるパンの種類、
すべて事細かに、頭の中で描いていったのです。
毎夜、毎夜、一つを加えるように

時間はいやになるほどありました。

だから、わたしは、そのパン屋を今も絵に
描くこともできます。

収容所では、毛布も、食べ物も、
友情も、
薬も、僧侶の話も、ありませんでした。

ほん
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