忘れ物/殿岡秀秋
ぼくがいる机の列と隣の机の列との間は
大木の祠のような穴があいて
ぼくが落ちてくるのを待っている
身震いして歩きだす
後ろの子に新聞を半分に切ってもらう
遠くの席の女の子に
色紙を分けてもらう
なるべく優しそうな子に頼む
先生が来て授業がはじまってからは
斜め前の子に糊をわけてもらう
はさみを隣の女の子に借りる
ぼくはもらったり借りたりするたびに
小さい声でお礼をいう
忘れ物をしたことを
気づかれないために
先生の動きを
髪の毛の先が察知する
今ぼくを見たようだ
何もいわずに通りすぎる
頭の中は
気遣いでいそがしいが
手先はゆっくりとしか動
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