冷えたカレーライス/殿岡秀秋
 
をかけた
母が雇っている若い女の人が顔を見せた

やがて母が出てきて
「これを持っていきなさい」といって
いそいで店に戻った
瓶ビールが並ぶケースの上に
四角い食事盆が残された
中に三皿のカレーライスがあって
湯気があがる

長兄は食事盆をもって歩きだした
家へ戻る道で
ぼくらは一言もしゃべらなかった
だれも店でどのような夕食になるか
聞いてはいなかったが
それぞれに
期待していた食事の風景があった
澱んだ池の表面に出るガスのように
コトバになるまえの何かが
三人の胸に湧いた

卓袱台に長兄が三つの皿を並べた
歩く間にカレーライスは冷えていた
ぼくら
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