冷えたカレーライス/殿岡秀秋
くらは無言のまま食べた
期待した夕食との
あまりの落差に
コトバが喉へたどりつかない
そこへ
冷えたカレーとライスの塊が
小石のように落ちていく
裸電球が薄黄色い光を
卓袱台に円く落とす
光の輪の外は茶色くくすんでいた。
食事を終えると次兄はうずくまって
音の出の悪いラジオに
耳をつけて聞いていた
長兄はスタンドを点けて宿題をはじめた
ぼくはすることもなく
庭に面した暗い窓を
ぼんやり見ながら
昨日観た
紙芝居を思いだしていた。
大きな家の
犬小屋の前におかれた餌から
湯気が立っているのを
貧しい少年が
垣根の間から
羨ましそうに見ていた
粗末な格好をしているが
内気そうな少年の顔は美しかった
紙芝居から抜け出た
少年の顔が窓に現れる
少年の透き通る眼が
食べることはできても
消化されないで
ぼくの胸に残る
冷えたカレーライスを
さみしそうに見つめる
その眼とぼくの眼があうと
からだの奥から凍えてくる
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