求道者/影山影司
てやろう」と缶の上に筒を掛けて湯を沸かすのだ。私の家庭は古めかしく、父に口答えなどしてはならない、という教えがあったので私は大抵何も言わず、お腹が空きました、と子供ながらに神妙な顔を作ったものだ。
耳を澄ませば淀み無く川瀬が聴こえる。缶の上に掛けられた筒の中で湯が煮立つ音。季節によっては虫の声。草葉が擦れる音。あるいは、ずっと遠くから聞こえる峠を越えるエンジンの音。
米軍のハライサゲ、という金属製のマグカップにコーンポタージュが注がれて、夕食が始まる。料理など、と台所にすら縁遠い父が、この日ばかりは腕を振るって私にあれやこれやと食べさせてくれた。
だが私の興味はいつも、缶の中、時折
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