宵の挨拶/北街かな
 
 三日月はびくりと驚きおののきました。発光部をより鮮明に見開いたまま動くのをやめ、歌もすっかりやめてしまいました。
 はるか眼下の蟻んこみたいな私を見つめ、だまって、ようすをうかがっていました。私はいっしゅん、なぜ月に話しかけたのかを忘れてしまって、口をぽかんと開けたままぼんやりしていました。
 三日月は青白く燃えあがったかと思うと、月の声を素早い夜風に乗せて私に聞いてきました。「さきほど くすりと わらったのは おまえか」よく聞こえませんでしたが、おおかたそんなふうなことを言っていたのでしょう。私は声をだす余裕もなかったから、ぶんぶんと首をタテにふってみせました。すると私の周辺がにわかに色づ
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