宵の挨拶/北街かな
 
困難が伴います。私は私ですが、私はまちがいなく「ここ」から「ここ」までであり、私は「この範囲」を、まちがいなく随意に自在に出来るのだ、などとという証明は出来た試しもなく、むろん自信もなければ、達成の経験もなく、保証なぞ到底できかねるのです。私が足を下げようと唾を飲み込めば右手が挙がり、背筋を伸ばそうとお尻をふれば膝がわらうのです。さむいしさみしいと耳を塞げば、肌にはますます鳥肌が泡立って辺りは冷えてむなしく冴え渡るばかり…そんな有様であるのです。
 それでも私は月に話しかけると決めましたので、ひとおもいに、   アー、ラーラ、フゥ、ヨイノ、アイサツ、
 と叫ぶまねをしてみせました。

 三
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