宵の挨拶/北街かな
もない天井をばかみたいに見上げてみたり、あっちら、こっちらと、右往左往にぎこちなく視点を切り替えておりました。が、やはり大仰に歌う三日月のことが気に触ってどうしようもありません。三日月の、
ヒュールルルンホルルルンウララ・アーン・ンーン
とかいう見ていられぬほどの大胆な歌いぶりとその身のまぶしすぎる光りだしっぷりに、大層いたたまれなくなり、こころの裂け目から密かな出血も止まらなくなってきましたので、ここはもう恥を忍んでひとおもいに、三日月に向かって声をあげてみようか、と思い立ったのです。
私はひらきぱなしの窓から半身をぐいんと乗り出して、あごを上下に振りながら懸命に月の声を発声しました
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