慈雨/セルフレーム
廊下の向う側に、貴方が見えた。
机の上に置いたシャープペンシルを、もう1度持ち直す。
閉じかけていたノートに、日本語訳を書き込む。
ペンを左手に持ち換える、廻す。
指の間をペンが通り過ぎて、
落ちる。
ブレザーのボタンに触れながらペンを拾う。
気がついたら、視界の端に留めておいた貴方の残像が、
消えていた。
拾ったペンにはもう温もりがない。
見えていた残像はもう思い出せない。
もう1度廊下側を向く。
窓を見る。
ノートを完全に閉じる。
ペンを、離す。
飛行機が飛んでいった青、
残像を絶やした瞳の
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