カンナ/結城 森士
うになった。それは、傍から見れば独り言を呟いているだけのようにも思えた。しかし沙織には、赤い花が自分の話をちゃんと聞き、頷いてくれているという奇妙な確信のようなものを抱いていた。
夕方、日が傾き始めた頃が一番美しく見える時間帯だった。硝子窓を通して部屋に入ってくる射光は、カンナの色にとてもよく似ていて、そのしっとりと水気を含んだ花びらは、ちょっとした拍子に壊れてしまうのではないかというほど繊細だった。彼女は、単調に過ぎていく歳月――ただ起きて寝るだけの生活――を、部屋の中で繰り返してきた。まるで廃園になった遊園地で、心だけがぐるぐると同じ場所を回り続けているメリーゴーランドのように、永遠とも思
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