カンナ/結城 森士
 
されたように部屋の前におかれていて、ボロになった部分があれば丁寧に縫ってくれた。半袖では少し肌寒い日が続くと、そこでようやく、季節が流れていったことを理解する。まるで光の届かない海の底の城にいるかのように、外界から漠然と隔絶された生活は成り立っていた。

 その部屋の窓際には、一輪の花が生けてあった。カンナという赤い花で、夏の初めに沙織の母親が何処からか持ってきて、鉢に植えかえ、何も言わずに部屋の前に置いてくれた。それから毎日、沙織は目を覚ますとカンナに水をやり、真っ赤な花に声をかけている。初めはただ、挨拶をしているだけであった。そのうちに少しずつ、自分の思い出や友達の話などを語りかけるように
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