カンナ/結城 森士
 
、白線からはみ出さないように、傷ついた素足の痛みを一歩一歩確かめながら、静かに歩いていく。
 静寂が黒い窓に訪れても、沙織は動こうとしなかった。夕焼けが永遠に続けば、この鬱屈した気分から救われるのではないか、そんなふうに考えたりもする。
 
 生産とは無縁の生活ではあったが、普段の食事は一日に二回だけ、母親が届けてくれた。といっても、部屋の扉の前の冷たい床の上に、お盆と一緒に置いていくだけで、声をかけられることもあれば、足音さえ立てないときもある。母親にも母親なりの事情と感情があるのかもしれないと思う。食べたものを返すときは、洗うべき服も一緒に扉の外に置いておく。洗濯された服は時々思い出され
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