件の話/影山影司
 
這いだ。脚か。アレは脚なのか。いやさ五本だ。一本はちょいとごつごつしている。アレか。アレはアレなのか。
 もし、よろしければ名前を聞いてもよろしいか
 立ち去ろうとする彼の尻
 後ろ足の付け根、と言い換えた方がよろしかろうか
 そこの丁度真ん中の、縦筋の奥にある穴から

 名乗るほどのものじゃありませんが

 とささやかな囁き声がする。
 不思議なことにこの雑踏の中でもその声はハッキリと聞き取れるのだ。

 私の郷では、私のようなものを件、と呼んでいましたよ

 件が一歩歩くたびに脂肪が揺れ、葡萄から朝露が零れ落ちるように汁が滴った。
 時折通行人の脚に肉を擦り付けるよ
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