件の話/影山影司
 
まうのです
 だからこうやってうずくまるけれど
 だァもかァも私に脚をとられて
 『はァ、何も無いところでこけるだなんて間抜けだナァ』
 なんて言うんです
 違うんです違うんです
 私のせいなのです
 だァもかァも悪くないのです

 ぶるすぃっぷ、げっぷみたいに彼が息を吹きだすと、汗がピュピュッと散った。でろでろの粘液みたいなそれは、やァコンクリートやアスファルトの上ではぬらぬら滑るやうだ。革靴で歩くサラリーマン達はすてん、としりもちをついたり、抱えた鞄を放り投げたりした。

 いっつもこんな感じなのですよ
 ごめんなさい ごめんなさい
 おろしたてのスーツが痛んだでしょ
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