売々/土田
 
最後の薄ら笑いを浮かべ、服屋の玻璃のまえでうずくまっている少年に、あなたさまはご自分の外套を少年の体へ掛け、レストランの路地裏で残飯をあさる獣じみた野良犬に、あなたさまはポケットからクッキーを野良犬の前に差し出し、広場で道化を演じ小銭をせびる老人に、あなたさまはご自分の革の財布を老人の掌へ握らせたと、わたくしへ呟きながら、むしりとったわたしの手を両手で包みながら、そのお顔はもう薄ら笑いでごまかすことはできませんでおいででした

あなたさまが踊りたいといって、ほつれた服に欠け始めた夜をかぶせ、傷ついた頬に温みをうつし、抜け殻のような髪を抱きかかえ、おさなさが残ったわたくしのあかぎれの手をむしりと
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