生姜湯/Affettuoso [アフェットゥオーソ]
 

 すべては相変わらずのままで




  *


  風邪をひいたら 生姜湯

 いつしかお前の口ぐせで
 いつもすぐに治って
 それが普通で
 だからあの冬もいつまでも生姜湯を飲んで
 冷たい台所でかじかんだ真っ赤な指が
 寒がりな指がふるえて
 生姜を摺りおろして
 ちいさい背中を揺らして

  かごいっぱいにあった生姜がなくなる頃に
  その日も朝に生姜湯を飲んで
  昼飯に飲んで
  夜に飲む前に
  しずかに死んだ



 妻の十一回忌にも娘の一回忌にも親父はいつものとおり墓前に行かず
 母さんに手を合わせるお前はもういなくて

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