焼却炉/カンチェルスキス
男の攻撃から
仲間をかばうためだ
男は甲高い声で叫んでいた
赤いナイロンのフード付の上着
束ねても良さそうな長髪に
短パンから
華奢で細い足が伸びていた
カマキリみたいだった
停めていた
自転車のかごから
先端が金属の施錠チェーンをつかんで
浮浪者の頭をめがけて
振り下ろした
倒れた浮浪者からも
かばう仲間からも
何も声は聞こえなかった
まわりの者たちの男を制止する
非力な声だけ
光と影に
恐ろしいほど
くっきり区別された
アスファルトの頭上に
雲散していった
もうこれ以上
何をされても
[次のページ]
戻る 編 削 Point(4)