聖灰水曜日の楽譜/《81》柴田望
 
、と念を固める 祖母に代筆頼まれ腹をたて わたしの字は汚い恥ずかしいなどと言いつつ母が書かされたあの手紙は どの境を越えたのか 不思議な住所をぼくは手にした それは符号しない各地点のずれであり 親戚どうしが平行して結びと解れを巻いていく緩慢な距離と点滅の長さだ 日暮れから夜明け 犯す過ちの背後に戒めが宿り 見方を少し変えたとたん血ではなく恩恵が溢れる なんてことばかりだ実際には 何もしてやれなかった悔いを 残したおかげでいつでも鮮明に呼び出せる 特別な故人のシルエットみたいに

ご親族の皆様 どうか最後のお別れを 棺の蓋は閉じてしまった わあぁぁーん、わあぁぁーん、かあさあぁーん、 泣き叫ぶ母
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