聖灰水曜日の楽譜/《81》柴田望
ぶ母の五十代の疲れた背は小学校上がる前の少女で 棺の祖母と冥界の祖父が泣きやまぬ妹の肩にそっと手を乗せ撫でるのを 学生帽被った少年の目で二人の伯父が振りかえっている ダムは破られ 参列者は首まで浸かり 火葬場の従業員は水着に着替える 火炎は絶好の写楽の波 天高く飛沫上げ 棺の着物と同じ艶やかな青くきらめく鱗の鯉は彼岸へ 爽快にライディングしていく ヒレ振る 頭から尻尾の先まで 劫火に浄化されし過去の骨組み接ぎ木はここで一旦打ち切られ 選択を待つ分岐条件網羅の夜明けを 水平を満たす最小単位の記憶に充当させ 共有化された秘密鍵の符合地点における個々の描写を 独立性を強く補いなさい思い出
初出『砂の女』 08年7月発刊 《81》柴田望
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