聖灰水曜日の楽譜/《81》柴田望
がぴちぴち跳ねる なんてことはなかった 十ヶ月もきみを遊泳していた真名子が顔から順番に足までじょばっと現れ 見舞いに連れてくると約束した祖母はすでにこの世を抜けだしており 通夜と葬儀のおかげで 普段なかなか集まれぬ血の繋がり仏前に溢れ お経静かに脈うち 胎児を眠らす
きみはご実家で産後ひと月過ごすので ぼくは一人台所で包丁のように鋭い冷凍の過去を裁くところをぬるり逃げられ 足に噛みつかれた 危険物の保安空地は厳守しよう あらゆる禁止事項を好むできの悪い息子のせいで 心配の現実化ばかりさせられる母がここで登場する マルグリット・デュラスのごとく、いつかぼくは母の病のことを書く、治るように、と
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