聖灰水曜日の楽譜/《81》柴田望
 
ら流れる血の赤い指紋や足型を眺めていたら あたかも殺人現場のごとく台所が生臭くなってきた

ヤハウェの啓示 十災のひとつ ナイル川の水はたちまち血に変わり 魚は死に 井戸水やエジプト王パロの杯さえ血溢れる なんてことが本当にあったか なんの比喩か 時代の空気か 心臓より高く足を揚げることもできず大騒ぎして夜間救急病院へ向かったが 縫うほどの怪我じゃない 大騒ぎするほどでもない安産だったが 手を握り肩を抱きつつ 息む前の深呼吸をともにした二人にとってきみの痛みは偉大な節目だ 胎盤が子宮壁からはがれる後産の子宮の収縮が弱く 出血は止まらず 分娩室を沈没させた血潮に乗って南方へと回遊する鰡の群れがぴ
[次のページ]
戻る   Point(2)