毛を舐める猫/木屋 亞万
 
しくていつまでも眺めていた

妻が白いお腹をこちらに向けて眠っている
という日常の記憶すら悲しげな思いに侵されている
目を閉じている妻が死んでいるようで怖い
妻は連れていかれた
妻も子も死んだ

妻とはまだ連れ添って一年だった
子もできて、幸せの絶頂だった
眉毛に火がつきそうだった昔の孤独も、自失もすべて嘘のようだった
嘘のようだった過去と現在が、寝耳に水を流し込むように逆転した
白いお腹の妻は今、親子の白い骨になっているのだ
私はその骨に再会することすらできない

だから私は自分の腹を見る
平らで、汚い自分の腹を眺め
まだ見ぬ我が子を
妻の美しいお腹を想う

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