多重化してゆく夢の記録/佐々宝砂
 
親がやってくる。「本を十冊いただいたから、お読みなさい」と言う。本好きな少女は毒薬を飲むのをやめて部屋に戻る。十冊の本のうち、一冊だけ粗末なザラ紙でカバーがつけてある。「汚しちゃいけないから、とりあえず一冊だけ紙で包んだわ」と母親が言う。「じゃあそれから読む」と少女がとりあげたカバー本は第二巻。

【シーン3】
シーン2と同じ舞台。時代はすこしだけ前。少女の兄が官憲にとらえられ、拷問を受けている。拷問が突然中断され、いぶかしい表情のところに、彼と幼なじみの男が軍服を着て入ってくる。「無罪放免にしてやるぞ、ただし条件付きだ」……独房で苦悩の表情の兄。画面かわる。少女は暗い表情で、当時流行の服に
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