Nemo/二瀬
『ずっとこっちを見ていれば良かったのに』
バケツに注がれた水面、ぽつぽつという声の持ち主の方に
振り向く、出来うる限りの力を眉間に込めて、言った
私はあなたを知らないのだから、と
泣きだす前の線香花火で
喋る表面を照らし出そうとすれば
『私を見つけられない』
その言葉が脳裏を火薬の破裂音と共に駆けて
私を呻かせる、そうやって幾度も
思わず墜死させた光、たちの遺言を
語られてしまうより先に、
暗い奥底から覗き込んでくるその人を、すすっと
切り裂いておく
『二つの船が、私達を横切っていくね
何の代償も払う事なく
実体のない人達が目覚める深い夢の、底
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