落ちた後/光冨郁也
に埋もれる。わたしの重さで、地平がゆっくりと傾いていく。あの蛾も、きっと流されてしまったのだろう。
(わたしも、このまま雨に流されてしまってもいい)
雨音が聞こえなくなった。目を開けると、眼鏡のレンズに雨が当たっている。けれども、自分の呼吸の音しか聞こえない。眼鏡のレンズは水に覆われている。耳元に流れる雨水。
わたしはまた目を閉じる。ふたたび熱い。自分の体が熱をおびている。
(このまま燃えてしまうか)
闇が自分を中心に渦をまく、そのくらみのなか、だれかが、わたしのジャケットをひっぱっている。が、動きがとれない。その闇には、光の帯がゆらめく。閉じた目を開き、首をわずかに曲げ
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