落ちた後/光冨郁也
息をする。まだ生きているらしい。ジャケットのポケットに両手を突っ込み、真上の闇を見続ける。あの闇の厚みはいったいどれくらいあるのだろう。次第に闇は深さをましていく。
風が額をなでる。ほとんど何も見えない。
落下してくる。まばらな雨が降り出した。顔や地面に当たる。指先にも。眼鏡のレンズにも雨粒が落ちる。周囲に音が次々とあがる。
雨の激しさが加速する。体中にあたる水滴が痛い。耳元で破裂する。わたしは強く目を閉じる。閉じたまぶたから水がしみこむ。永く続くかのように、降りそそぐ水の玉。つかのま身体は熱く、そして次第に寒くなっていく。もう空腹感はない。麻痺したのだろう。濡れた体の重さ。地に埋
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