街の鳥葬/しろう
 
彼女は、「不幸じゃなきゃいい絵なんか描けるわけないじゃない」と言った。
俺はそうじゃないと思ったが、言わなかった。
彼女と、壊れた時計がそのままのアトリエを思い浮かべて、
頭の中で白樺の木々の間に黒い羽根を背負った裸婦像の下書きをしていた。
どこにもそんな景色は存在しないから、彼女を求めるのはやめた。
赤く脹れあがったケロイドを、その痛みを忘れずにいることができるから、
俺と彼女は傷つけ合うことを許したのだ。


タバコの吸い殻が足元に八本は転がった頃、噴水の公園を後にした。
消したいのはタバコの火ではなく、無常の世で生き抜くことの虚しさだ。
過ぎゆく人々の顔が、行方不明者の
[次のページ]
戻る   Point(1)