かつていちどは人間だったもの/影山影司
 
鏡の頭はぐにゃりと凹んだ。ビクビクと痙攣する体を裏返すと、幸い血が殆ど出ていない。鼻と、あと口の中を少し切っているだけのようだ。
 ここが研究施設で良かった。死体の処理は簡単だ。


 それからさらに一年が過ぎた。
 心配していた追っ手は来なかった。封筒の中身と、眼鏡の死体から頂いた財布で身分を買い、家を借りた。あとは適当な仕事について毎日プラプラしている。
 考えてみれば、毎日糞のように鬼の死骸を垂れ流す施設だ。研究員がちょいといくらか拝借したところで、誤差の範囲で済ましているのかもしれなかった。

 ところで俺の部屋には、雌の鬼が同居している。年は人間であるならば高校生くらいだ
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