かつていちどは人間だったもの/影山影司
 
は猿みたいに絞り切っちゃうんだよ」とはにかんだ表情で言う。まぁ、中で茶でも。と俺がヤカンを手に取り促すと「いやいや」と手を軽く挙げて拒んだ。
 眼鏡と俺は、仕事の付き合いは長い。殆ど二人で仕事をする事が多かったし、三年間分からないことがあれば全て眼鏡に聞いて、仕事のやり方を憶えた。眼鏡の人格はともかく、仕事の腕や知識は非常に優れたものであった。なぜこんな場末の研究員をやっているのか、と何度も思ったが、眼鏡の人格に問題があるのを思い出して聞くのをやめた。
 そうだ、俺も眼鏡も互いのことを殆ど知らない。プライベートの話題はしない。休みの日も施設から出ることはない。趣味という趣味も持たず、ただ淡々と
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