ホタル/chick
だね」
そっと見下ろすと、ホタルは確実に数を増やしている。真っ赤な火種を持ち合わせて、きっとみんなシャツに汗染みを作っているのだろう。あなたと同じ、誰かにベランダに追いやられて。
ホタルは夏の夜空に映えるけれど、それは決して故郷で見た綺麗なものではない。それでも単調な赤は夜空によく映えた。
春に初めて田舎から上京したときの心細さがふと頭をよぎった
上京したての頃、一人きりになる昼間がどうも苦手だった
ゆっくりと洗濯をした、ゆっくりと片づけをした
そのうちに会社からあなたが帰ってくると思って
通りすがる自転車も、真昼の明るすぎるビルの窓も、点滅する信号機も
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