批評祭参加作品■〈日常〉へたどりつくための彷徨 ??坂井信夫『〈日常〉へ』について/岡部淳太郎
本当は弱い存在なのに徒党を組んで強く見せかけている、感性が鈍磨し自我だけが肥大した存在であるように見える。彼等は〈日常〉から外に一歩も踏み出ることがない。〈日常〉という狭い世界だけを世界のすべてであると思い、自我の命ずるままに疾走し振り返ることのない存在。「衆愚」という言葉によって言い表しうるような、人間のどうしようもなく醜い部分が拡大された存在なのかもしれない。いまや圧倒的多数になってしまった犀の群れを鎮めようと、釘男が現れる。だが、彼の力も無力であり、犀を押しとどめることは出来ない。釘男は〈日常〉と〈非日常〉との境界に立ち、その両方を必要とする。そして、話者もまたそうであるだろう。だが、犀は〈
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