批評祭参加作品■〈日常〉へたどりつくための彷徨 ??坂井信夫『〈日常〉へ』について/岡部淳太郎
は〈日常〉の中にしか住んでいない。彼等は〈日常〉に入り切ることの出来ない話者を尻目に、〈日常〉から〈日常〉へと移動する。あとには、疑うことを知らない〈日常〉が通りすぎていった後の残骸が残されているだけだ。
結局、この詩集は何を語っていたのか? おそらくそれは明示できることではないし、明示するべきことでもないのだろう。ただ、孤独をまとった話者が〈日常〉へたどりつこうとして彷徨している姿だけが、執拗なまでに克明に記録されている。だが、たどりつくことはかなわず、話者は相変らず〈日常〉と〈非日常〉の狭間に立って呆然としているだけだ。そして私たちは〈日常〉へと至る道が意外なほどに長く曲りくねっていることを知り、その道のりの過酷さを思って自らの〈日常〉もまたそのような不安定なものであるのかもしれないと思って、足下に視線を落とすことになる。そこには、見慣れたはずの〈日常〉が他人のような顔をしてゆらゆらと揺れているのだ。
坂井信夫『〈日常〉へ』(二〇〇六年十二月漉林書房刊)
(二〇〇七年二〜三月)
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