批評祭参加作品■〈日常〉へたどりつくための彷徨 ??坂井信夫『〈日常〉へ』について/岡部淳太郎
 
をあげ
ながら渦をまいた。そのとき忽然とすがたを
現した釘男は、穴のあいた両掌をたかくあげ
て犀たちを静めようとした。けれど狂ったよ
うに群れはかれめがけて襲いかかり、踏みく
だいた。ぼろきれのようになった釘男は、そ
れでもようやく立ちあがり、なにものかを阻
止しようとふたたび両腕をあげた。そうして
犀たちが去っていった後を、一歩ずつ踏みし
めるように上麻生道路の砂けむりのなかに消
えてゆくのであった。}

 この散文詩が詩集全体をしめくくっているのだが、ここにおいては犀の存在が圧倒的になっている。これを読むと、犀とはつまり、醜い心を持ちながらそれを自覚しようとしない、本当
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