批評祭参加作品■〈日常〉へたどりつくための彷徨 ??坂井信夫『〈日常〉へ』について/岡部淳太郎
 
っこを遠慮がちに歩いている。だが、
いまはこんな風景さえみられなくなった。も
はや車道を渡ってくるのは、ぜんぶ犀だ。い
や、もう車さえ走っていない。ふいに、ぼく
の眼のまえで一頭が駆けだすと、つられて数
頭がつづいた。もう長いこと舗装されていな
いアスファルトの車道には、ぶ厚い砂ぼこり
が積もっている。かれらは蹄を蹴たてて走り
まわった。風が――いや絶望が、もうもうと
舞いあがった。みわたすかぎり犀しかいない
光景が現れた。その群れは看板をゆりおとし
広告柱をなぎ倒し、砂塵をまきあげながら道
路いっぱいにひろがった。角をふりたて厚い
胴体の皮をふるわせ、奇妙な叫びごえをあ
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