よしこちゃんのピアノ/縞田みやぎ
なかったから
紙にかいたのをもらって たたいて
毎回レッスンのときに はじめて音をきいた
こづかいで楽譜買ってならべて
これが来たときには くちがきけなくて
妹が弾いてた
わたしは くちがきけなくて
よしこちゃんは ずうっと 旅をしていた
子どもが生まれると彼女は
自分の家にピアノを買った
子どもたちがつまづいて弾くのを
せんたくと炊事の耳できいた
ブルグミュラーの牧歌くらいなら
今でもきっと弾けると思う と
笑わないで話す
大人になってから少しだけ もう一度習ったけれど
いそぐことでもないし
と
もう その前に座ることもない
二十年ともっとすぎて
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