この世界を離れて ★/atsuchan69
 
オマンマ食うために旅まわりしとるのとちゃうの?」
「そうやで」
「食われへんやん!」
「がまんしとき。こんな日もあるんやさかい」
 そのうち母ちゃんは、どこからか粗末な食べ物をもらってきてこう言った、「やっぱ、食べなあかんな。死んでしまうわ」


 そのころはまだテレビもない時代で芝居小屋のない町や村では旅の一座がくると、それは町じゅう村じゅうで大さわぎの人だかりになった。父ちゃんはヨレヨレのいっちょうらの燕尾服を着てじまんのバイオリンを弾きかなでて客をよんだ。その音色は甘くかなしく、くわえて母ちゃんの美しさと芸のふかいおどりが人目をひいた。
 緞帳の下りたあと、村長がぶっちょう面
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