待つ男 一/結城 森士
 
無い。彼を訪れて来る人の気配もまた無い。
 駅前の人の数も心なしか少なくなっていた。操り人形師は既に居なくなり、代わりに何処かの良く分からない宗教団体が怪しい歌を歌いながら募金収集活動をしていた。
 20代後半くらいの女が真剣な表情で人々に呼びかける。
「信じましょう 愛を、神を、信じましょう 例え人生に裏切られても我らが神を信じましょう それが救済への第一歩 共に信じるために さぁ一緒に歌いましょう」
横顔の美しいその女は、昭和の時代でもダサいと笑われそうなほど無様な歌を、他の仲間達と手を取り合って合唱し始めた。
 馬鹿馬鹿しい。彼女達の活動を横目で眺めながら井崎は再び煙草に火をつけた
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