待つ男 一/結城 森士
けた。そして何故俺はこんなにも長い間待ち続けているのだろう、もしかしたら俺は救われたいのだろうか、と考え始めた。だがすぐに女の歌声が聞こえてきたので考える事を止めてしまった。とても嫌な気分だった。
*
腕時計を見ると、約束の時間を5時間も過ぎている。最近は冷え込むのでコートとマフラーをしてきたのだが、同じ場所にずっと立っているとさすがに寒さを感じずにはいられない。近くの自販機で缶コーヒーを買ってやり過ごそうと思った。帰ろうなどとは微塵も考えなかった。先ほどの宗教団体は場所を変え、此処からはよく見えないところに移ったようだ。
終電が近づきつつある。駅に向かって歩いてくるたくさんの人達の中には、井崎の顔を不思議そうに眺める顔もあった。おそらく、5時間前にも此処で井崎を見かけたのだろう。
続く
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