障子の影/佐々宝砂
通りすぎてゆくのを待った。どのくらいそうしていたかな、たぶん五分くらいのものだ。でも、ぼくにとっては凄く長い時間だった。後で何を言われるかわからないが、ひとまず今日はうまいことやり過ごした。ほっとしたぼくは、例の女のひとにお礼を言おうと思って立ち上がり、例の障子に手をかけた。障子には、いつものように、女のひとの影が映っていたよ。
「こんにちは」
何か挨拶をしなくちゃならないと子供心に考えて、ぼくは声をかけながら障子を開けた。返事はなかった。それも当然で、その部屋には誰もいなかったんだ。
そこは広い部屋ではなかった。ごく狭い三畳間だった。向かって左側に小さな床の間があって、めろ
[次のページ]
戻る 編 削 Point(4)