障子の影/佐々宝砂
 
ったっていいのだが、負けを認めるのも癪にさわるもんだから、ぼくはランドセルをうっちゃらかして逃げちまおうと決めた。ぼくは自分のランドセルだけ持って、後先考えずに、ダッと走り出したんだ。もちろん、同級生の悪ガキ連中が後を追ってくる。ぼくは走って走って走った、もうやたらに走って、気がついたらあの家の前にいたんだ。ぼくはぜいぜい肩で息をしながら考えた。あの日本髪の女のひとなら、きっとぼくをかくまってくれるだろうってね。

 悪ガキ連中が角を曲がってくるのが見えた。もう考えてる時間はない。ぼくは決死の覚悟で玄関に飛び込み、引き戸を閉めた。それから、靴箱のそばでちっちゃくなって、怒り狂った子供の声が通り
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