花埋み(石)/宮市菜央
 
あのひとのところへ歩いて行って何があるのか見てみたいけれどあたしが近づいたらあのひとはすぐにあたしの気配に気づいて動きを止めて何もしていなかったふりをしてすべてが壊れてしまう、そう知っていたから止めた。それがあのひととあたしの距離なのだ。
 あのひとはかつてはあたしと愛し合い、今は他の人と愛し合っている。彼は心を病むあたしを気遣って、そっと連れ出してくれた、あの人の立場を思うとそれはきっと胸の傷むことに違いなかったけれど、もう今こうして同じ時間と空間を共有している以上、そのことは絶対に何も言うまいと決めた。

 足元には平凡な石もあれば美しい模様の石もあった。ゆるりと起き上がってあたしは美し
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