『石の女』/川村 透
 
の、
彼女の瞳にはあの輝きは感じられない、
あの瞳が闇をとろけさせるように輝いた瞬間、
僕の耳の底に月琴の音色じみたすこやかな
あこがれ、に似た、いらだち、が生まれたのかも知れない。

それからの僕は、クスリを使い
日常のありとあらゆる場面で彼女を眠らせてみた。
キッチンでエプロン姿のまま流し台のステンレスに、耳をあてたまま
オニオンスープを僕の器に流し込む白い腕に指をからめてくず折れる
リビングで僕の肩に頭をのせ映画に眉をひそめながら不意に重くなり
シャワーの音けたたましくバスタブに赤い胸と濡れた髪を預けたまま

眠り姫、
と、呼びかけても目覚めない彼女のそばに居て
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