『石の女』/川村 透
 
は写らないことに気づいたのだった
透明人間の一種であるなら衣服は写るはず、
なのに彼女が身に着けたもの手にした花や靴でさえ
マイダス王に触れたかのように、写らなくなるのだった。

目覚めている時の、
彼女の長い黒髪は淡い月を縁取るようにおごそかで気高く
猫のようなまなざしとしなやかさをたたえながら決定的に
何かが欠けていた。
もちろん言葉は人並みに通じるし、
つつましやかで、育ちの良さが匂うばかりだ
たしなみ、や、ふるまい、も古風で上品で
何の不満も不自由も、あるはずもない、
なのに彼女は人の形をした、虫、じみた、美、を僕に伝えた。
僕は虫かごにお気に入りの蝶を閉じ込め
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