沈黙のオペラ/鈴木カルラ
 

あの日、甘美な美声で大衆を魅了した、あの、無数の正義が
その信念と良心にもとづいて歌う
黙秘のアリアを
黙秘のアンサンブルを
黙秘の合唱を歌い上げる

そして、世界を縦横に駆け巡り喝采をあびた、過去の自由が
蘇ることのない死体の役を演じつづける
哀愁の死体を
悲壮の死体を
惨劇の死体を演じつづける


もはや、オペラは終わらない
永遠とも思える時間に縛られているかのように

コンダクターはタクトを振りつづけた
しかし、彼の鼓膜は劇場の瓦解とともに破れ
その目はその瞬間に煌いた光りに焼かれたのだ

コンダクターには、何も聞こえていない、何も見えていない

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